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Awsay Strok 1937年5月19日 東京
(孫娘 Liane Carrowとその息子 Adam Carrow 提供)

 ストローク(Awsay Strok)とは、1910年代から日本敗戦後にいたるまで、およそ30年にわたり上海に居住し、ヨーロッパ、ロシア、米国から演奏家、歌手、オペラ団、バレエダンサーなどを招聘し、日本公演を含む「アジアツアー」をプロデュースしたユダヤ人興行主である。

彼は1875年2月28日、ラトヴィア、ドヴィンスク Dvinsk に生まれ、戦前、30年余りを上海、戦後はニューヨークに移り、1956年7月2日、東京で永眠した。

A.ストロークの名は、演奏家の評伝や東アジアの洋楽受容に関する文献のなかに「impresario、インプレサリオ、興行主、ディレクター、マネージャー」として数多く見出せる。しかしながら、彼自身の経歴や活動についての本格的な研究はなされてこなかった。

日本国内では、彼が企画した興行があたかも「日本のみを目的地」としていたかのように誤解されがちであった。つまり、日本においては、ストロークは「世界的に著名な演奏家を、日本にはじめて招来した興行主」、との認識がなされてきた。しかし、彼が手がけた興行は、日本を目的地とするものではなく、広くアジアの諸都市、日本、中国、東南アジアの植民地都市を巡業(ツアー)する興行であった。そして日本と上海は一組のセットになってツアーに組み込まれていた。

当ウェブサイトは井口淳子のこれまでの研究に基づくものである。井口は上海で発行された英字新聞や仏語新聞にストロークの名前が公演広告や記事に数多く掲載されていることに着眼し、英字新聞データベース及び、それを補完する仏語新聞 Le Journal de Shanghai により、彼がプロデュースした上海公演を抽出し、その全体像を明らかにすることを試みた。

 その結果、ストロークは東京、大阪、上海で、ほぼ同時に同一のアーティストが公演を行う、国境をこえた演奏家、舞踊家のアジアツアーを1918年から1940年までの23年間にわたり、60回以上実施していたことが明らかになった。さらに戦後、ニューヨークに事務所を構えたストロークは1951年、メニューヒン招聘を皮切りに次々と世界的アーティストや合唱団、オーケストラの日本公演をプロデュースした。そして1956年、旅先の東京で没した。彼の葬儀は「音楽葬」として東京、日比谷公会堂で盛大に営まれ横浜外国人墓地に埋葬された。

 ストロークは日本、上海をはじめとするアジアに西洋音楽との本格的な出会いをもたらす架け橋といえる存在であり、その生涯はそのまま、日本の音楽マネジメント史と重なるといっても過言ではない。

主なアジアツアー

​音楽家

1921  エルマン Mischa Elman (vn)

1923  クライスラー Fritz Kreisler (vn)

1923  ハイフェッツ Jascha Heifetz (vn)

1928  ティボー Jacques Thibaud (vn)    

1928  モイセイヴィッチ Benno Moiseiwitsch (pf)

1929  セゴヴィア Andrés Segovia(guitar)

1935  ルビンシュタイン Arthur Rubinstein (pf)

1936  シャリアピン Feodor Chaliapin (bass)

 

 

舞踊家

1925–26  ルース・セント・デニス&テッド・ショーン Ruth St. Denis, Ted Shawn 

1928–29  ラ・アルヘンチーナ La Argentina 

1931  クロティルド・ザハロフ&アレクサンダー・ザハロフClotilde, Alexandre Sakharoff 

1932  テレジーナ Teresina 

1934  ルース・ページ&ハロルト・クロイツベルク Ruth Page, Harold Kreutzberg 

1934  クロティルド・ザハロフ&アレクサンダー・ザハロフ Clotilde, Alexander Sakharoff 

1935–36  マニュエラ・デル・リオ  Manuela Del Rio 

 

リンク:井口論文pdfファイルと著書

井口淳子著「A. ストロークのアジアツアー:上海租界で発行された英字新聞にもとづいて」 『音楽学』 2017 年 62 巻 2 号 p. 73-85

 https://doi.org/10.20591/ongakugaku.62.2_73

 

 

井口淳子著

『亡命者たちの上海楽壇 – 租界の音楽とバレエ』音楽之友社。https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?code=371120

 

井口淳子著

『流亡者们的乐坛 – 上海租界的音乐和芭蕾』(亡命者たちの楽壇 – 上海租界の音楽とバレエ)彭瑾訳、上海音乐学院出版社。

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